きみの愛なら疑わない
玄関ホールには既に浅野さんの姿はなく、小走りで会社を出たところで浅野さんに追いついた。
「浅野さん!」
呼び止める声に浅野さんは振り返った。その顔はしつこく追いかけてくる私を煩わしくさえ思っているかのようだ。
「私は優磨くんとどうにかなりたいなんて思ってない!」
思わず叫んだ。
浅野さんは私の言動全てを撥ね退ける。普通なら諦めるのかもしれないけれど、こっちももう意地だ。
「ご存知でしょうけど私一途なんです。浅野さんに気持ちを伝えた以上、優磨くんに気を持たせたくないから会ったりしない!」
そう簡単に諦められない。誤解をされたくない。
「足立さん、ここは会社の前だよ。そんな話は場所を考えないと」
いつかと同じようなセリフを吐いて話を終わらせようとする。
「じゃあお店に入りましょう。ブックカフェでもいいですから。別にもう優磨くんが目の前にいても構いません!」
浅野さんは無表情で私を見て、私は浅野さんを睨んでいるといっていい。そんな二人を通行人やすれ違う社員が不思議そうに見て行った。
「君は本当にしつこいね」
自分でもそう思う。逆の立場ならうんざりしているかもしれない。でも……。
「それだけ本気なんです」
「僕よりも優磨といた方が楽しいと思うよ。年も近いしね」
「それは私が決めることです。それに浅野さんこそ。優磨くんに何も言わないんですか? 私の気持ちを」
「優磨が傷つくことは言わないよ」
伏し目になった浅野さんに「そんなのひどい」と呟いた。
優磨くんといた方がいいと言って、私が浅野さんを好きだということを優磨くんには言わない。
浅野さんと優磨くんの関係が壊れるようなことをあえて言わないのだろうけど、私の気持ちを受け流して、優磨くんを傷つけることを恐れる浅野さんは間違っている。