きみの愛なら疑わない

浅野さんの好きな書籍を知れる機会かもしれない。
私は先に階段を上り始めた浅野さんについていく。

本屋のガラスのドアを開けて中に入ると私の足は止まった。入って右を見た目の前にはKILIN-ERRORのCDが並べられた特設コーナーがあった。
最新シングルとアルバムがズラリと並び、プラスチックケースの中に入ったメンバーの写真が大勢正面に立つ私を見ている。

思わず動けなくなった私に気づかず、浅野さんはどんどん奥に歩いていってしまう。このコーナーの前を通ったはずなのに、何事もないように。

私はCDジャケットを睨みつけて浅野さんを探した。追いつくと彼はまたスマートフォンを操作していた。

「何か探し物ですか?」

声をかけるとポケットにスマートフォンをしまい、ある棚の前で一冊のマンガを手に取った。
それは浅野さんが手にするにはあまりにも不釣り合いな少女マンガだった。

実写映画が公開中のこの作品は若手俳優がたくさん出演していることで話題の作品だ。

「このマンガを買われるんですか?」

「ああ……優磨が」

「優磨くん?」

「優磨が好きなんだ。このマンガが」

「だから買ってあげるんですか?」

「いや、あいつが自分で買うと思う。新刊がもう発売してるよって教えてあげるだけ」

浅野さんは仕事の話か、それ以外のときは優磨くんのことしか話さない。これだから男性が好きなのではと勘違いされるのだ。
私をあしらうのも、もしかしたら本当に女に興味がなくて優磨くんのことが……なんて考えてしまう。このままでは優磨くんにまで嫉妬してしまいそうだ。

浅野さんのスマートフォンが鳴った。

「ちょっとごめんね」

そう言って浅野さんはマンガを棚に戻し、私から少し離れてスマートフォンを耳に当てた。

「もしもし……ああ、うん……」

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