きみの愛なら疑わない
私は少しでも二人きりでいたくて早く通話が終わればいいのにと思いながら浅野さんが見ていたマンガの表紙を眺めた。
「何それ……」
急に暗くなった声に驚いて浅野さんを見た。
「誘いに乗らなかったのは君だよ。遊ばれたのは僕の方だ」
不穏な会話につい聞き耳を立ててしまう。久しく聞かなかった誰かを冷たく叱責する時の声だ。今の浅野さんの声はその状態にとても似ている。
「それは僕のセリフだよね。一回寝たからって勘違いしないでよ」
聞き捨てならない言葉に耳を疑う。無表情だけど浅野さんは今怒っている。
「終わりだよ」
そう言い捨てて浅野さんは耳からスマートフォンを離した。そうして何もなかったようにまたマンガを手に取った。
「あの……大丈夫ですか?」
思わず聞いてしまった。電話の内容が気になって仕方がない。
「ああ、気にしないで」
「でも……浅野さん辛そうです」
顔には出さないけれど、浅野さんは今何かがあって傷ついている。そんな気がしてならない。
私の言葉に彼は目を見開いた。
「すみません……何となくそう思ったので」
「…………」
話の内容は横にいた私にだって分かるくらい気まずいものだ。
「今の、彼女さんかなーなんて……」
電話の相手は女の人。そう思ったから遠回しに聞いてみた。浅野さんの顔が少しだけ意地悪な顔になる。
「彼女だとしたらどうする?」
「嫉妬しますね」
本音で即答した。
「浅野さんに誘ってもらえて、浅野さんの心を乱すなんて羨ましいです」
冷めた態度のこの人を振り回して心を揺さぶるなんて、そんな特別で楽しそうなことを私だってしてみたい。
「でも、今の電話の人は浅野さんを傷つけた気がしました。そんなことをするなんて酷いなって思います」