きみの愛なら疑わない
今でこそあのバンドは有名になって稼いでいるだろうけど、美麗さんを養えるほどの稼ぎはあの頃はなかったはず。美麗さんがあのあとどうなったのかは優磨くんからは知ることができない。
「慶太さんは俺の家庭教師をやってくれてた時期があって付き合いは長いです。親が雇った教師よりも分かりやすくて成績も伸びたんですよね」
優磨くんは自分のことのように浅野さんを誇らしく思っているようだ。確か浅野さんはハイレベルの大学出身だったはず。城藤も納得の高学歴なのだろう。
「実は慶太さんと俺の姉って付き合ってたんです」
「へえ……そうなんだ……」
初めて聞いたように装った声を出す。
「俺の家に教師として来てくれたときに姉と出会いました」
そうして美麗さんは珍しく自分から浅野さんに惚れたんだ……。
「二人は結婚するはずだったんですよ」
「そう……なんだ」
「でもだめになっちゃいました。姉が浮気してたんです……」
これも初めて聞いたふりをした。このまま黙って聞いていれば当時のことがより深く聞けるはずだと思って。
並んで歩く優磨くんの横顔は暗くてどんな表情かは分からない。
「それが分かったのが結婚式の当日で……最悪の式になっちゃいました……」
優磨くんの声は少しだけ震えている。それはきっと寒いからだけではない。
「姉はそれ以来帰ってきません。浮気相手と上手くやってるんじゃないかな。あっちは今仕事が順調みたいなので」
KILIN-ERRORは今では大人気のバンドになった。昨年末の音楽番組に見ない日はなかった。
彼らを目にする度、曲を耳にする度に浅野さんだけじゃなく優磨くんも辛いことを思い出す。
全然関係なかった優磨くんまで今も苦しめることになるなんて、当時の私も美麗さんも深く考えることができなかった。