GREEN DAYS~緑の日々~
夏穂は近くに生えていた木の葉っぱを一枚引っ張った。葉脈を見つめる。左の頬に花火の光。涙が零れる。ここにいる意味。生きている意味。風を受ける意味。日々を過ごして行かなければならない義務感。何だかわからない。何もわからない。何もかもわからない。
洸は泣いている夏穂の綺麗な横顔に見惚れていた。夏穂は花火が鮮やかに舞い上がっている夜空をきっちり見つめて泣いている。洸は思った。夏穂はどうして泣いているのだろう。夏穂が幸せに暮らしているかどうか。笑っているかどうか。それだけが心配でこの町に来たのに。だけど今この前にいる夏穂。どうして泣いているんだろう。若い命で泣いているんだろう。泣かないでくれ。泣かないでくれ。
「何で泣いてんだよ」
夏穂は振り返って何も答えなかった。洸は繰り返した。
「何で泣いてんだよ」
夏穂は唇を噛み締めた。
「だって、だって上手く行かないじゃん」
「何が」
「何もかも上手く行かないじゃん」
「だから何がだよ」
「全部!」
夏穂は洸に近付いた。
「ねえ何で?、何で上手く行かないの?、おかしいよ、おかしいじゃん」
「だから何が」
「国人はお姉ちゃんとお祭りに行っちゃうし、親父は訳わかんないし、皆、皆、あたしから離れて行っちゃうじゃん」
「訳わからない…」
夏穂は涙を拭った。
「あたしが小さい頃どっか行っちゃって、帰って来なくなって、新聞とか載って、近所の人とか学校の子とか噂して、あたし、どんどん一人ぼっちんなって、友達とか、その子のお母さんとか、もうあたしと遊んじゃ駄目だとか言って、誰も、誰も挨拶とかもしてくんなくなって。変わんないのは国人だけだったのに。家まで来てくれて、学校一緒に行こうとか言ってくれて。だけどあたしより、国人、あたしより」
夏穂は涙を溜めた。
「あんたもそうでしょ、この事知ったら離れてくんでしょ」
「離れねえよ」
「だって!」
洸は夏穂を抱き締めた。
「止めてよ!、ゆかた汚れんじゃん、止めてよ!」
洸は夏穂を抱き締めながら思っていた。夏穂は自分が捨てられたと思っている。周りから、父親から。自分は今まで捨てられたのは自分だけだと思っていた。だが違う。違っていたんだ。夏穂の目尻の涙が光る。洸はそれを右手の親指の腹で拭いた。そしてもう一度強く抱き締めた。
「そういう事もあるよ。そういう事ってあるよ。人生、長いじゃん。そういう時もあるよ。俺も頑張るから、お前も頑張ればいいじゃん。俺達、これからじゃん。これから先、何があるかわかんないけど、つらくなったり苦しくなったりしたら、息継ぎして頑張ればいいじゃん。また頑張ればいいじゃん」
洸は夏穂の瞳を見ながら思っていた。まだ子供だな、と。そうだ。まだ夏穂は十八歳だ。誰かに向かって泣きわめきたい時もあるだろう。そうして当然だ。洸ははっとした。どうして、どうして今みたいな言葉をあの時の自分にかけてやらなかったんだろう。あの時の自分に。今、夏穂に言ってやった様な言葉を。二人はそのままゆっくりといつまでも花火を見つめていた。
その後、二人は前と後ろで手を繋ぎながら歩いていた。前を歩いていた洸は振り返らずに呟いた。
「お前も可愛い所あんだな」
「えっ?」
「抱き締めた時、がっちがちだったから」
夏穂は口を尖らせた。
「しょうがないじゃん、あんな事されたの初めてだったんだから」
「だけどあれだよな」
「何」
「高校生で男と抱き合うの初めてって遅いよな」
「うるせーコノヤロー」
洸は無邪気に笑った。夏穂には洸のその笑い声が不思議と心地良く感じられた。それから夏穂は洸と二人、家路を遠回りした。
洸は泣いている夏穂の綺麗な横顔に見惚れていた。夏穂は花火が鮮やかに舞い上がっている夜空をきっちり見つめて泣いている。洸は思った。夏穂はどうして泣いているのだろう。夏穂が幸せに暮らしているかどうか。笑っているかどうか。それだけが心配でこの町に来たのに。だけど今この前にいる夏穂。どうして泣いているんだろう。若い命で泣いているんだろう。泣かないでくれ。泣かないでくれ。
「何で泣いてんだよ」
夏穂は振り返って何も答えなかった。洸は繰り返した。
「何で泣いてんだよ」
夏穂は唇を噛み締めた。
「だって、だって上手く行かないじゃん」
「何が」
「何もかも上手く行かないじゃん」
「だから何がだよ」
「全部!」
夏穂は洸に近付いた。
「ねえ何で?、何で上手く行かないの?、おかしいよ、おかしいじゃん」
「だから何が」
「国人はお姉ちゃんとお祭りに行っちゃうし、親父は訳わかんないし、皆、皆、あたしから離れて行っちゃうじゃん」
「訳わからない…」
夏穂は涙を拭った。
「あたしが小さい頃どっか行っちゃって、帰って来なくなって、新聞とか載って、近所の人とか学校の子とか噂して、あたし、どんどん一人ぼっちんなって、友達とか、その子のお母さんとか、もうあたしと遊んじゃ駄目だとか言って、誰も、誰も挨拶とかもしてくんなくなって。変わんないのは国人だけだったのに。家まで来てくれて、学校一緒に行こうとか言ってくれて。だけどあたしより、国人、あたしより」
夏穂は涙を溜めた。
「あんたもそうでしょ、この事知ったら離れてくんでしょ」
「離れねえよ」
「だって!」
洸は夏穂を抱き締めた。
「止めてよ!、ゆかた汚れんじゃん、止めてよ!」
洸は夏穂を抱き締めながら思っていた。夏穂は自分が捨てられたと思っている。周りから、父親から。自分は今まで捨てられたのは自分だけだと思っていた。だが違う。違っていたんだ。夏穂の目尻の涙が光る。洸はそれを右手の親指の腹で拭いた。そしてもう一度強く抱き締めた。
「そういう事もあるよ。そういう事ってあるよ。人生、長いじゃん。そういう時もあるよ。俺も頑張るから、お前も頑張ればいいじゃん。俺達、これからじゃん。これから先、何があるかわかんないけど、つらくなったり苦しくなったりしたら、息継ぎして頑張ればいいじゃん。また頑張ればいいじゃん」
洸は夏穂の瞳を見ながら思っていた。まだ子供だな、と。そうだ。まだ夏穂は十八歳だ。誰かに向かって泣きわめきたい時もあるだろう。そうして当然だ。洸ははっとした。どうして、どうして今みたいな言葉をあの時の自分にかけてやらなかったんだろう。あの時の自分に。今、夏穂に言ってやった様な言葉を。二人はそのままゆっくりといつまでも花火を見つめていた。
その後、二人は前と後ろで手を繋ぎながら歩いていた。前を歩いていた洸は振り返らずに呟いた。
「お前も可愛い所あんだな」
「えっ?」
「抱き締めた時、がっちがちだったから」
夏穂は口を尖らせた。
「しょうがないじゃん、あんな事されたの初めてだったんだから」
「だけどあれだよな」
「何」
「高校生で男と抱き合うの初めてって遅いよな」
「うるせーコノヤロー」
洸は無邪気に笑った。夏穂には洸のその笑い声が不思議と心地良く感じられた。それから夏穂は洸と二人、家路を遠回りした。