…だから、キミを追いかけて
「食べても食堂に行くのはタダや。何が旨いか教えたる。ついて来い!」

「ついて来い………って…」

言うが早いか、既に席を立っている。
スタスタ…と喫茶室を出る。

波留の背中を追いかけるのは何度目⁉︎
どうしていつも振り回すの⁉︎


「波留……!待って……!」

追いかける私を振り向き、愉快そうに笑う。
その吸い込まれそうな笑顔を見て、胸が締め付けられるように痛くなる。

好きになった人には、片想いの相手がいるーーーー。
その相手と彼は、絶対に結ばれない関係。
なのに、波留は…その気持ちが揺るがない……と言った。


(本当に…?)


昨夜の優しい言い方も、今の素敵な笑顔も、私に向けられたものだと思うのに。
波留の気持ちは変わらなくて、やっぱり心は澄良のもので?

スーパームーンだろうが何だろうが、伝説はやっぱり変わらなくて。効果は何一つなくて。
私はずっと、波留に想いを寄せられないまま、縁が途切れるのを待つだけで……?

初めての人も最後の人も航だけで、誰とも恋愛なんかできなくて……

したくても、相手はこっちを向かなくて……

誰とだったらいい恋ができるか迷うばかりで………。


だけど……


私が想い描くのは、波留との恋愛で………


でも、今は…それすらも叶わなくて…………


何も……求められなくてーーーーーーー



追いかけるのを止めて立ち止まった。2、3メートル先を行く波留の足も止まる。
振り返る彼のベージュ色の唇を眺めて、思わず叫んだ。



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