…だから、キミを追いかけて
駐車場まで来て、後ろを振り返った。


波留の姿はない。

当たり前だ。あの人が追いかけるのは私じゃない。
高校時代の仲良しで。学年きっての秀才だった彼女。

そのノートは参考書よりも解りやすい…と人気だった。借りてった人が次から次へと又貸しする程、持て囃されていた。
…だけど、私は知っている。
皆が一番魅力に感じていたこと。

引っ込み思案な性格の彼女が、一旦読み始めると、シ…ンと教室が静かになった。
ソプラノ歌手のような癒し声が、私たちの心を穏やかにしていく。
歌うような感じでリーディングする声を、ずっと聞いていたくなる。
かわいい声だ…と思っていたのは、きっと、私だけじゃない。
その声で笑う彼女を見たら、虜にならない男子はいなかった。

モテていたのは、澄良の方。本当に愛されていたのは、彼女の方。外見でなく、声とハートで相手の心を仕留めた。

過去を知り得る私には、澄良に敵うほどの魅力はない。

それを知っているから、彼女との連絡を絶った。
会うと惨めになる澄良に、会わずに済む方法をとった。

そんな事をしても縁の糸は切れずに、昔よりもはるかに強く、複雑に絡み付いているというのにーーーーー。



『一生会えんでもいい相手なんか、この世には居らん…』

波留の言う通りかもしれない。

……でも、2度と会いたくない人は、この世に必ずいて……。

私にとって澄良は、むしろそっちの部類に近かった。

劣等感を思い起こさせる相手……。
澄良は………今も昔も…私にとっては、嫌な存在でしかないーーーーー。



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