…だから、キミを追いかけて
「最低や………私は…………」


波留のことを尊敬すると言っていたのに、自分が彼を好きだと思うと、もうそれをしたくなくなっている。
自分の気持ちに気づいて欲しくて、彼に追ってきて欲しくて逃げた。


そんなことをしても……


彼が追いかけてくることなど無いのにーーーーー




(灯台の時とは違う………。これが現実…………)




ーーーしゃがみ込んで泣き出した。

小さな子供の頃のように。
父を求めて泣いた…あの頃のように………。




「波留……」



名前の相手はこない。
分かっていても、やはり呼びたいーーーーー。









「何や…」


えっ……と顔を上げた。

ブルーグレーの制服に、黒い長靴を履いた人が立っている。
息を切らして、怒ったような顔をして。
目深に被った帽子を浅めに変えて、汗をうっすらと、額に光らせて………。


4、5メートル先から歩み寄ってくる。
その足の勢いに圧倒されながら、しゃがみ込んだまま彼を見つめた。



「……お前な……人前であんま怒鳴んな!…さすがに恥ずかしかろうが…!」

側に来て、座り込む。
私と同じ体勢に近い状態の波留が、ほらっ…と、腕を差し伸ばした。


キョトン…としたまま、彼の顔に見入った。
呆れ顔している彼は、黙って私の右手を引っ張った。

ポトッ…と、あったかい物が掌に乗っかる。

白い包み紙に包まれた丸いドーム型の物は、透明な湯気を放ち、それを指差した波留が、こう教えてくれた。
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