君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「けっこう、連発したはずだ」
嘘、知らない。
覚えてないってこと?
こんなふうに記憶が飛ぶなんて、ありえないと思ってたのに。
顔が熱くなるのを感じて、思わず両手で耳を押さえる。
信号に引っかかり、サイドを引いてペダルから足を離した新庄さんが、余裕の表情でこちらを見る。
「覚えてないんだな」
わざわざ確認しなくても、わかるだろ。
答えるのも癪で、じろりと見ると。
「それこそ、可愛すぎだろ」
こんな時だけ、しっかり目を合わせて、ふてぶてしく笑う。
このタイミングで言うのは、卑怯だ。
もう、恥ずかしくて顔を見られない。
「!」
突然背中をなぞられて、身体が跳ねた。
実は、私は背中が弱くて、普通に服を着ている時でも、偶然何かが当たっただけで、飛びあがるくらい弱い。
当然ながら、この間それがバレて、息も絶え絶えの中、いい加減にしてください、と怒らなきゃならなかったほど、しつこく責められた。
悔しくて、恥ずかしくて、涙がにじむ。
新庄さんはどこ吹く風で、じきに変わる信号に備えてペダルに足を戻すと、ギアを入れた。
私はその脇腹を、軽くつかんだ。
ウエストの上の、ちょうど肋骨が始まるあたり。
ドン、という衝撃と共に、エンジンが停止した。