妬こうよ、そこはさ。
『最近、愛が足りない』。


そんな陳腐な台詞を今まで笑い飛ばしてきたけど、思う。

私は今、笑い飛ばしてきた状態、まさにその通りの状況にある、と。


静かな晩に、彼が鍵を開ける音が思いの外大きく響いた。


「ただいま」

「おかえり」


出迎えは顔を見合わせるくらいで簡単に済ませて、キッチンに行く。


夫が帰ってきたのは足音で分かっていたから、ご飯を温め始めていた。


軽く準備を終わらせて、やりかけの仕事をしに戻ると、着替えた彼が、今朝時間をかけて綺麗に整えていた髪を面倒臭そうにわしゃわしゃ掻き乱して崩しながら、リビングに顔を見せた。


仕事をする手を一旦止めて顔を上げる。


「今日早かったね」

「頑張った」


いつもより一時間も早く帰宅した彼の表情には、確かに少し疲労が見えた。


「お疲れ。待ってればよかった?」

「いや、連絡しなかったから」

「そう。ご飯温めてるよ」


変わりばえのしない労いと報告。


温まったご飯を彼がレンジから取り出して食べるのは、平日の晩御飯では珍しくない。


帰ってきたら何よりも先にご飯。


夜は早く帰ってきた方が担当。

朝は夜作ってない方。

昼は各自。


そう、決まっていて。

好き嫌いも、もうほとんど把握していて。


阿吽の呼吸というよりは、惰性と交替が基本の、そんなこんなで回る日常たち。
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