麗しき星の花
『やめろおおおおおおおっ!!!!!』


 シンの叫びに、九つの首がしなやかにうねる。

 血が滴たるような真っ赤な目がシンに向く。

 標的が変わった。

 そう思ったのは一瞬だった。

 標的が“増えた”。

 九もある頭は、たった2人の人間を同時に攻撃することなど容易いことだったのだ。

 自分のやったことは無駄だった。妹どころか、自分の身すら守れない。

 絶望。

 咆哮を上げながら襲い掛かってくる九つの頭を前に、食べられる恐怖に支配される。

 それはリィも同じはずだった。

 けれども彼女は、光のない虚ろな目をしながらも、力を振り絞って風を喚び寄せ、手にしていたバタフライナイフを、シンを狙っている頭の目に投げつけた。

 竜にしてみれば小粒の石か、それとも小鳥の羽でも当たったかくらいの軽い衝撃しかなかったはずだ。それでも唯一の弱点と言ってもいい目への攻撃は、僅かな時間、シンから意識を逸らすことに成功した。

 だからシンは助かり、リィは。

 容赦ない鋭い牙の餌食になり、シンはそれを目撃することになる。




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