麗しき星の花
「っ!」

 目が、覚める。

 まだ薄暗い部屋のベッドの中、宙に手を伸ばした状態で覚醒したシンは、一瞬の戸惑いの後、大きく息を吐き出した。

「あー……」

 伸ばした手を額にやる。ぐっしょりと汗に濡れていた。

 もう一度大きく息を吐き出して、過去を夢見た気分の悪さを吹き飛ばそうとする。──懐かしい夢を見せたのは、先日の異世界での出来事か。


 あの時、妹は竜に食われた。恐ろしく鋭い牙に串刺しにされて、命の火を消しかけた。

 そこに絶妙のタイミングで両親が飛び込んできた。

 フェイレイがリィを食らった竜の首を斬り落とし、鋭い牙の隙間から娘の体を引き摺り出した。血塗れの娘はリディルに託された。

 心臓は止まっていたらしい。胸に穴が空いていた。

 それを見てもリディルは動揺しなかった。いや、本当は激しく狼狽していたのかもしれない。けれども母親であり、癒し手でもある彼女は冷静でいることに努めた。

 娘の状態を見た瞬間に覚悟を決め、リィの胸に空いた傷から手を入れて、折られた肋骨の下にある心臓を直接マッサージした。そうして無理やり“生”の状態を創り出し、全力で癒しの力を発動させた。

 リディルの力を以ってしても、“リィ”が戻ってくる可能性は五分五分だった。

 体の傷が癒えても目を閉じたままのリィは、両親が九頭の竜と戦っている間、シンと一緒に眩く光る癒しの空間に守られていた。

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