麗しき星の花
 両親と九頭の竜の闘いは熾烈を極めていた。

 見上げるほどの巨躯に、触れるだけで肉を切る鱗。目に見えぬほどの速さで蠢く九頭。一頭を落とすだけでも相当な力量が必要だというのに、それに加えて頭のそれぞれが属性を持っていた。しかも、どの頭がどの属性を持っているのか見分けがつかない。弱点以外の魔法攻撃、及び正面からの物理攻撃では直様首が再生してしまう──。戦闘のプロである勇者と姫でも、倒すのは至難の業だった。

 その激闘を尻目に、シンは泣きながらリィの名前を呼び続けていた。

 その声が届いたのかどうかは分からないが、リィは今、体のどこにも傷を残さない状態で生きている。──見えない部分に傷は残したようだけれど。



「リィ、朝だぞー」

 いつもの日課である妹を起こしに行くと、リィは広いベッドの真ん中で、布団にくるまって眠っていた。

「リィー」

 ベッドに両手と片足を乗せて寝顔を覗き込む。穏やかな寝顔の妹は、ピクリとも動かない。

「……リィ」

 声に不安が混じるのは、さっきまで見ていた夢の影響が残っているからか。

「起きろ」

 白い頬を指で撫でてやる。シンの方が体温が高いのか、リィの頬はひんやりと冷たく感じられた。

「起きろよ」

 その冷たさにまた不安になり、頬を撫でた手を首に滑らせる。手のひらから伝わってくるものがちゃんと温かくて、ほっとした。

「リィー」

 呼びかけても反応のない妹に少しだけ腹が立って、そのまま耳をくすぐる。

「……うにゃー」

 口元を緩めて身を縮める妹に、シンは笑みを浮かべる。

「お前は猫か」

「にゃ……?」

 もう一人の妹、シルヴィがよく「はにゃー」と言うのは、寝ぼけているときのリィの真似からきているのだと、本人は気づいているだろうか。

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