麗しき星の花
 それから、何気なしに東へと目を向ける。

 薄い青空を背にした、天を突き抜ける鈍色の細い塔が見える。

 この場所からは細い塔にしか見えないが、その正体は直径500メートルにも及ぶ、皇都近海に基部を置く宙(そら)への玄関口、起動エレベーターだ。今は実験的にチューブの中をリニアモーターが動いている。

 現在使われている宇宙港に降り立つシャトルなどよりも、ずっと環境に優しくコストもかからないとされているため、惑星王は最初からこちらを主導で推めていた。

 人も物もより多く運ぶことの出来る起動エレベーターは、開通にはあと数年かかると言われていた。

 それはこの星の情勢がまだ安定していないため、援助をしている星際連盟から許可が下りなかったからだ。

 実は建設時にも反対の声はあった。ミルトゥワは人と魔族が争う地。現在は冷戦状態となってはいるが、いつそれが解除されるか分からない。そんな緊迫した情勢の時に起動エレベーターを動かすわけにはいかない、と。

 けれども今上惑星王カイン=アルウェル=ユグドラシェルは、様々な反対の声を押し切り、開通を強く望んだ。

 そして今、鈍色の塔は華々しく宙への扉を開こうとしている。

「諸刃の剣だ」

 賢王であるカインのすることに意義を唱える気はない。しかし、ヴァンガードは起動エレベーターに向かってそう吐き捨てた。

 苦い顔でサイホルスターから魔銃を引き抜き、神殿の裏側へ回る。

 建物を囲む白い花をつける常緑広葉木の下に、穢れのない色には似つかわしくない、黒いものが蹲っていた。

 黒づくめの、3人の男。

 それぞれ腕や足から血を流し、短い草の上に折り重なるようにして倒れている。

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