麗しき星の花
 けれども花音はそう言われたのだと思い、それ以来、ますますこの人物が苦手となったのだが……。



 笑った。

 兄の和音や拓斗と話しているときに、笑っているのを見たことがないわけでなかった。けれども、自分に向かって微笑んでくれたのは初めてだったかもしれない。

(……み、認めてくれたのかな、私を!)

 御三家筆頭家の主に認められるって、凄いことじゃないのか。さぶちゃんをぎゅっと抱きしめ、花音は心を高ぶらせる。

 しかし真吏の冷たい瞳と目が合った瞬間、なんだか自信がなくなって俯いてしまった。

 その様子を見ていた真吏は、軽く溜息を吐いてクリアファイルをテーブルに置いた。

「顔を上げろ」

「は、はい」

 花音は顔を上げる。

「お前は兄たちに引けを取らない、素晴らしい才能の持ち主だ。自信を持て、胸を張って前を見ろ。そうしなければ見えないものもある」

「は……はい」

 思いがけない言葉に瞬きを繰り返す。

 それでも頷くと、真吏が「うむ」と大仰に頷いて見せた。

「ところで」

「は、はい?」

「更紗殿がお前に着付けを教えたがっている」

「えっ……さ、更紗様、が……どうして」

 御三家の藤家当主、更紗。

 花音もかわいがってもらってはいるのだが、柔らかい物腰ながら押しの強い彼女のことは、少し苦手だった。

「嫁入りの準備をさせたいのではないか」

「……よ、嫁入りっ!?」

「一応、お茶と花と踊りは出来るのだろう? あとは着付けを教えなくては、とはりきっていたぞ」

「な、なぜええっ?」

「夕城家が武家だからだろう。拓斗も落ち着いたし、次はお前の番だからな。私たちの代はお前が一番下だし、親戚中が心配しているところだ」

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