麗しき星の花
 その言葉の瞬間だった。

 聖からぶわっと、恐ろしいまでの殺気が噴出されたのは。

(あ、俺死んだ)

 シンは本能的にそう感じた。

 そして同時に『死にたくない』と身体が動いた。無意識のうちに聖に攻撃を仕掛ける。その動きは、直前まで何度も何度も練習していた基礎中の基礎の動き、攻撃と防御を同時に行うものだった。

 当然、聖はいつものようにシンの剣を流し。

 そして消えた。

「──は!」

 突然手応えを失って、シンは目を見開いた。

 今の今までその殺気で人を殺してしまいそうだった聖が、その殺気とともに跡形もなく霧散してしまった。

 何が起きたのか分からない。

 忽然と師匠が消えた空間を、ただ見つめていると。

「あだっ!?」

 突然に脳天に拳を見舞われた。

「稽古中に余所見は駄目だよ、シンくん」

 背後から、聖の声がした。

(……なにが)

 何が、起きた。いつの間に背後に回り込まれた。

 背筋がぞわりと粟立った。

 何が起きたのか、まったく、分からない。分からない、けれど──。

「君がやりたいのは、“これ”、だろう?」

 そう言われ、シンは振り返った。

 目を見開いたまま聖を凝視し。

 そして、頷いた。

「はい……はい! それです! 今、どうやっ……なんで消え……!」

 徐々に興奮してきて、うまく質問が出来ない。そう、まさにその動きだ。シンがやりたいこと、リィから盗みたい動き、それらが合わさった見事な歩法。

「絶対防御、とでもいうのかな」

「絶対、防御」

「わりと危険な技を覚えたいんだね。この技、リスクが大きい。自分の気配を完全に消すために、一瞬だけ急所もなにもかも曝け出すようになる。それを補うためにリィちゃんがよくやっている歩法と、フェイントのかけ方を覚えたいんだろう?」

「は、はい!」

 自分でも良く解らないことを、この人は何故解ったのだろう。何故解ってくれたんだろう。そのことが嬉しくて、シンは頬を染めながら頷いた。

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