いつか晴れた日に
会えなくなるわけじゃない。
会社で顔を合わせるのだから、いくらでも話す機会はあるはずだけど。

きっと、黒崎くんからは話しかけてはもらえない。何故だか、そんな気がしていた。

「終わった~」

黒崎くんが嬉しそうに、天井に向かって「うーん」と大きく伸びをする。

それを見て、クスッと笑ってしまった。まるで犬か猫みたい。

……犬か。

やっぱり違うんだよね?

黒崎くんは……わたしが待っている涼じゃない。

そんなことを考えながら、荷物を手に取り席を立った。


「じゃ、お疲れ様でした」

「安西さん」

「な、なに?」

黒崎くんに呼び止められて、ドキッとして振り向いた。

「あのさ、」

「う、うん」

黒い瞳で見詰められるだけで、ドキドキしてしまう。

どうしよう?わたし、顔が赤くない?

黒崎くんは、わたしの顔をじっと見詰めたまま。

それから

「睫毛ついてるよ?」そう言って、一瞬だけわたしの顔に触れた。

……息が出来ない。


「取れた」

「……ありがとう」

「じゃ、お疲れ」

黒崎くんは何でもない事のようにニコリと笑って、わたしから目を逸らした。



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