Change the voice
結局、倉庫のレンタル料を払い続ける事など出来るはずもなく、もちろん行く宛もない俺は、手持ちのスポーツバッグに詰め込めるだけの貴重品と衣装だけを持って、あとは処分することにした。

処分費だけでもその額は高額に上り(そもそも不動産屋が緊急で頼んでいる為、出張費などの名目がかさんでいた)、深夜のコンビニで有り金を全て叩いて、無情なテールランプを見送った。

時計を見ると、もう深夜2時になろうかという時間だった。


こんな時、頼れるのはあのふざけた旧友しかいない。


電話を掛けると、数コールで女が出た。―――…女?


『……永嗣、桐原クンよ』


さっきまで微睡んでいたであろう掠れた声で、確かに女は三田の名前を口にした。

三田が電話口に出る。


「何だよこんな時間に。訃報とかかよ」

「いや、そこまで悪い話じゃないが………野中さん、来てるのか?」

「来てるもなにも一緒に暮らしてるよ。どうした?なんかあったのか?」


言葉とは裏腹に、あくび混じりで返す旧友の言葉に思わずたじろぐ。

完全にアテが外れた。


「悪ぃ、事情は今度話すから、とりあえず今日は良いや。悪かったな」

「おい、何だよ。話せ―――」


三田との通話を切りながら、俺は残された最悪のシナリオを選び取る他なく、情けない気持ちで通話ボタンを押した。


「こんな時間にすみません……真下さん。今晩、泊めていただけませんか……?」
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