sinner
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良く晴れた、引っ越しには最適の日和だった。
荷物はもう業者さんによって運び出されていて、あとは掃除を、としたいところだけど、彼の生活はまだここでもう少し続くから、あまり触れない。彼は今日も普通に出勤していった。
せめてとベランダを掃除することにした。
あの日、深夜に帰ったわたしを、彼はいつものように寝顔で迎えた。玄関に靴があるのも、ベランダの惨状も気づいてなかったみたいだ。でもお互い様。わたしだって、彼がいつ帰ってきたかも知らない。隣だったのだから、気づこうと思えば可能だったのに、わたしは他事に意識を全て奪われていた。
「引っ越すんだね」
「っ!!」
久しぶりにかけられた声は、心なしか緊張しているようにも感じた。
「はい。円満にお別れです。――話し合ったときに、彼、好きな人のこと言ってくれて。わたし、そこでも救われちゃいました」
隠さずいてくれた彼で良かったと思った。それがたとえ最後でも、言ってくれる人で良かったと。綺麗に纏めようとするなんて、ずるいわたしだ。
「ぼくは――」
「あなたにもっ! 救われちゃいました」
わたしは言葉を遮った。お兄さんにはこんなことをしてしまうばかりだ。
けどいけない。その表情から推測する言葉を聞いてしまうのは。
「あなたは、きっと誠実で、きっとわたしは幸せでいられて大切にしてもらえる。――でも」
「……うん」
「でもこのまま進んだら、また寂しさだけからか、ちゃんと自分でそうしたいと思って始めたのか、わからなくなりそう……」
「うん。だから?」
「――、さようなら」
ほんの少しの交流だけだったけど、この人とは、違う形で出逢いたかったと心底感じた。
「いつか何処かで会えたら、今度は言うから」
遮ったそれにわたしは救われる。
幸せにしてくれる最後の言葉だった。