sinner

 
 
 
新しいアパートは、急いで選んだにしては快適で、職場も近くなって家賃の負担も大幅に増幅することはなかった。
忙しかった仕事も一段落し、今日は久しぶりの定時あがり。同僚からのお誘いも捨てがたかったけど、部屋に揃えたいものの買い出しもしたかったからお断りした。


会社から駅前までの道で、ふと、花屋さんの前で足が止まる。こんな可愛らしい店が職場の近くにあったなんて、今の今まで気づかなかった。
店内から花たちの匂いが風に乗って運ばれてくる。懐かしさに吸い寄せられそう。


「でも、今買っちゃうのもな」


これから寄りたいところ全部に付き合わせては花に申し訳ない。でも、終わる頃には閉店してる、よね。戻ってくるのもなんだし。


いつもお裾分けしてもらっていたから、わたしの中で花を部屋に飾ることは日常になってしまっていた。それは、とても幸せな習慣だったけど、引っ越しの慌ただしさで最近は出来ていない。


「よけてくださいっ!!」


その場で色々と思案していたものだから、誰かからの突然の声に反応できる余裕はなく、わたしはその忠告が何に対するものだったのか、一秒後身をもって知ることとなる。


「へっ? っ、きゃあっ!!」


「大丈夫ですかっ?」


「つっ……めたっ」


わたしが見とれていた花屋さん。そこの従業員がこぼしてしまった水を膝から下にもろかぶりしてしまった。


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