sinner
もう、誰に言っても、その感情は恋だと認めてもらえるだろうかと、言えない感情を日々もて余す。
いつからか、煙草を嗜むようになった彼女がライターに火を点すのを盗み見る。彼女が越してきてからもう三年くらいか。
恋だと言いたいものに落ちてからは、その半分かもう少し。
ぼくは今日も相変わらず、ベランダで愛しいものばかりを愛でている。
「わたしの煙草、この子たちに迷惑ですかね……やっぱり」
「やめられますか?」
「うっ、~ん」
「平気ですよ。それに、あからさまに風向きがこの子たちにいっているとき、止めてくれてるでしょ」
きっかけがなければやめられなくなってしまったらしい煙草の煙を、ぼくと植物から一番離れて吐く姿に、愛しさと寂しさが募る。一本だけだと手早く携帯灰皿に処理した彼女と、他愛ない世間話を重ねる大切な夜の時間。
今日は、いつもより星がよく見えると話をする。遠くで響く救急車の音がして、二人して野次馬よろしくベランダから少し身体を乗り出した。
「――これ、迷惑じゃなければどうぞ」
「あっ、りがとうございます」
「いいえ。どうか愛でてやってね」
「はい。それはもちろん」
今日もアクシデントで触れ合わなかった指先が悔しがる。けれど、笑顔で受け取ってくれる彼女に心が震える。彼女の家の中には、ぼくから受け取る花に合う花瓶がもう幾つかあるらしい。
幸せだ。そうやってどんどん、ぼくに侵食されていけばいいのに。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
今日の彼女の家の中は、どうやら独りではないようだった。けれど、ぼくと別れる頃には消えてしまっていた室内の電気に目をやる。
彼女は待たれることのないそこへと帰っていった。