sinner

 
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その日、初めて彼女を帰宅途中の駅で見かけた。同じ車両の違うドアから乗り込んでくる。遠目からではあったけど、その姿は光って存在を主張しているようで、結局最初から最後まで見失うことはなかった。
今まで帰宅時間が重なることのなかった彼女の姿をいち早く人混みの中から見つけることができ、昂る心臓がやばいくらいだ。


別に、帰路は同じなわけだから後ろめたいことはない。誰に遠慮するでもなく彼女の少し疲れたような背中を、数メートル後方から見つめながら、電車から降りたあと自宅までの道を歩く。


彼女の両腕には幾つもの紙袋が提げられていて、ぼくも知っている衣料品店のものもあった。けれど、その中には滅多なことでは買えないブランドのものがひとつ、あった。
衣料品のショップの袋は全て右腕に、左腕には食品だろうか、ビンやプラスチック容器の擦れる音がする。ケーキとおぼしき底の広い大きな袋を、彼女は一番気を使いながら持っていた。水平に水平にと。それらは全て、彼女の職場最寄り駅に隣接するデパートに入るテナントのものだと思い至る。


「……」


今夜は同棲中の男とパーティーでもするのかと、勝手に嫉妬した。


あんな男のどこがいいんだろう。
僕ならもっと……。


今日も見つけてしまった取引先帰りでの光景に憤る。彼女が帰りを待つ男は、綿菓子女と一緒にいた……今日だけのことじゃあないけれど。それは、もう何度も見てきた光景。
何故か、今日は早い時間からデートでもしていたのか、駅のホームで別れを惜しむ男女は、男が一本電車をやり過ごし、ぼくはそれを冷めた目で、男が乗るはずだった車内から見送った。


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