sinner

 
見下ろせば、そこには顔をくしゃくしゃにして目に涙を溜めながらも、嬉しいと微笑む彼女があった。
見上げてくれた拍子に彼女の目から涙がこぼれる。反射的に指で拭おうとして、寸前で躊躇った。
微笑まれながら怒られる。


「馬鹿……いっつも土壇場で引いちゃうんだから」


悩み宙をさまようぼくの手をとり、彼女は自分の頬へと導いてくれる。


「……ぼくがヘタレなんて、もう知ってるだろ……」


それは、この半年で培われた理解。そんなぼくを知っても、彼女は離れないでいてくれた。


「誕生日、祝ってくれてありがとう。――嬉しい」


「っ」


彼女とぼくの間にあった花束は、彼女の手中にあるまま、ぼくの背中へと回された。
ぼくの胴回りは彼女に囲まれ、それはすなわち、抱きしめられているということ。


「もうひとつのプレゼントも、貰っていい?」


「っ!! っ、もちろんっ」


「貰っちゃったら、逃げ出せないんだから」


「こっちこそ、返品なんて勘弁だよ」


その言葉を体現するように、回された腕に力を込められる。伝わってきた彼女の体温は冷たくも熱くもなく。上昇する一方なぼくの体温と等しくて、触れたところから境界がなくなるようだった。


「待たせてしまってごめんなさい。待っててくれて、ありがとう」


「うん――本当にだよ」


その折れてしまいそうな華奢な身体を抱きしめ返しながら、ぼくでいいのかと耳元で囁くと、ぼくがいいのだと怒られた。


「あなたでなきゃ、いやなんです」


「それは、ぼくもです」


閉店時間を過ぎた自分の職場で、いつの間にか一人減った観客の存在など忘れ、ぼくは恥ずかしい姿ばかりを、気付けば随分曝していた。後日、現場にいた従業員の子からそれはオーナーにまで伝わっていて色々言われることとなる。
けど、それも気にならないくらいに幸せだ。ぼくに抱きしめられて幸せだと笑う彼女がいてくれて、ずっと待っていた言葉をくれたんだから。


「わたしも、あなたのことが好きです」


その告白を思い出す度、ぼくは情けなくも泣きそうになる。














――END――
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