振った男
好きじゃなければ、付き合いたいなんて思わない。一樹に聞かれて、自覚したけど、私は、紛れもなく一樹が好きだ。好きという気持ちに偽りはない。

だから、私を選んで。私を見て。


「でも、俺は、小夏が好きなんだよ?」


あの子の名前は小夏というらしい。一樹が小夏という人を好きなのは、一樹の小夏さんを見る目で分かっていた。

それでも、私と付き合ってくれるなら、好きな人がいてもいいと思った。


「誰を好きでもいいよ。私と付き合おうよ。私じゃダメなの?」


少々強引だったけど、いつかあの小夏って子よりも私を好きになってくれるという自信があった。だって、私だって負けないくらいかわいいはずだから。


「生田さんは、かわいいと思うよ。いつか生田さんを好きになれればいいけど」


「今は好きじゃなくてもいいから、付き合って!」


気持ちが高揚してしまって、思わずすがるように抱きついてしまう。

どうしても一樹の彼女になりたかった。どうしても一樹の隣で笑っていたかった。


「分かった。絶対に好きになるという保証はないけど、それでもいいと言うなら、付き合う?」


こうして、私は好きな女がいる男との交際をスタートさせることが出来た。
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