王道恋愛はじめませんか?



『――はい、総務部・真山です。』


携帯電話の通話ボタンを押したみのりさんは、さっきまでの照れた表情はどこに行ったのか、控室で見た仕事モードの真剣な顔つきをしていた。

「はい、了解しました」などと、堅苦しい口調から、電話の要件は業務関係だろう。

数分後、通話を終えた彼女は、俺に向き合って申し訳なさそうな顔を見せる。

きっと、すぐに仕事に戻らなければならないのだろう。


『ごめんなさい、杉原さん。私もう、行かないといけなくて、』

「うん、こんなに引き止めちゃってゴメン。」


手元の腕時計を見れば、控室を後にしてから10分は立っていた。

これは…戻ったらメンバーにまた怪しまれるだろうな…。と苦笑いが止まらない。


『いえいえ。わざわざ声をかけてくださって、ありがとうございました。』

「……。」


本当に、彼女は小さなことでもよく感謝の言葉を述べてくれる。

彼女に声を掛けたのは、完全に俺の勝手な都合であるのに。

それでも、彼女はありがとうと、笑顔を見せるのだ。

――だから、どうしようもなく彼女に惹かれてしまうのかもしれないと思った。



< 71 / 190 >

この作品をシェア

pagetop