王道恋愛はじめませんか?
『――はい、総務部・真山です。』
携帯電話の通話ボタンを押したみのりさんは、さっきまでの照れた表情はどこに行ったのか、控室で見た仕事モードの真剣な顔つきをしていた。
「はい、了解しました」などと、堅苦しい口調から、電話の要件は業務関係だろう。
数分後、通話を終えた彼女は、俺に向き合って申し訳なさそうな顔を見せる。
きっと、すぐに仕事に戻らなければならないのだろう。
『ごめんなさい、杉原さん。私もう、行かないといけなくて、』
「うん、こんなに引き止めちゃってゴメン。」
手元の腕時計を見れば、控室を後にしてから10分は立っていた。
これは…戻ったらメンバーにまた怪しまれるだろうな…。と苦笑いが止まらない。
『いえいえ。わざわざ声をかけてくださって、ありがとうございました。』
「……。」
本当に、彼女は小さなことでもよく感謝の言葉を述べてくれる。
彼女に声を掛けたのは、完全に俺の勝手な都合であるのに。
それでも、彼女はありがとうと、笑顔を見せるのだ。
――だから、どうしようもなく彼女に惹かれてしまうのかもしれないと思った。