この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
01恋愛拒絶主義
私が恋人を亡くしたのは三年前
交通事故だった
もう忘れよう恋なんて二度とするもんかって思ってた
会社からの帰り道
マンションに着くなり目にとびこんできたのはゴミ捨て場に捨てられた人形
マネキンだろうか気味が悪い
でもマネキンにしてはリアルすぎる
近づいてよく見てみると微かに息をしてる
まさかと思って声をあげようとしたら手首を掴まれ口を塞がれた
「騒ぐな」
低い声でききとれるかききとれないかの瀬戸際の音量
「···騒ぎませんから離して苦しい」
「おまえの部屋にいれてくんね?
悪いようにはしないから
っ···」
「どっか怪我してる?」
暗すぎてわからない
仕方なくエントラスをくぐってエレベーターに乗る
でも防犯カメラあるんだよね怪しまれないかな??
私の部屋は303号室
3階についてひきずるようにそれを招き入れた
電気をつけて唖然とする
泥だらけなのだ
これじゃあ傷がよくみえない
タオルごとバスルームに押し込むとしばらくして水音が響いたので安心する
なにやってんだろう私
しばらくすると彼が戻ってきた
ひきしまった体に浮かぶ痣
それでも細くしなやかな印象をうける
顔も痣はあるけど整っている
「醜いアヒルの子みたい」
くすりと笑っていると彼はソファーに座った
私はソファーの前にある小さなテーブルにシチューを置いた
食べたくて作ったがけっきょく余らせてあぐねていたのだ
彼はガツガツとまるで獣が食事をするように食べるひたすらに食べる
鍋ひとつが空になるのにさほど時間はかからなかった
私ははっとした
彼の背中
翼のタトゥーがある肩甲骨にそって片方だけ黒いカラスのような翼のタトゥー
飛べない鳥または飛び方を忘れた鳥
私は元彼が残したシャツを彼に手渡した
シャツを着ると多少見栄えはする
彼はあろうことか私の元彼の写真に手を伸ばした
「触らないで」
「あんたの男?」
「最初で最後の」
「ふーん」
「あなたこそなんで?」
「堕ちたんだよ空から」
あなたはいっちゃってる方ですか
私は警察に電話をしようとした
でもすぐにやめた
こんな電話まともじゃない
「名前きいていい?」
「瑞希」
意外にも素直に答えてくれたが彼にはどうでもいいようだ
「私は」
「名前なんて意味ないだろ
きいたってたぶん忘れる
忘れないようにするには体に教えるしかないんだよ」
「私は恋愛なんてもうしないんです」
「ふーんあっそ
じゃあおやすみ」
淡泊なんだか冷たいんだか
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