この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
バイクに乗って都心を離れて向かったのは山奥だった
本当に人などこなそうな場所にお寺がポツンとあった
律はバイクを停めるとお寺の境内にあがり一言かける
「爺、ただいま」
はい?今なんて?
「今更なんの用じゃ?」
「爺、大事な人を連れてきた」
くるりと向き直ったのはどうみても住職さん
手には木魚の棒と経典
「あのはじめまして」
「倉橋大二郎です」
えっと律のお爺ちゃん?
「俺を助けてくれた人な」
律はそのままどこかに行ってしまった
しかたなく私はその場に座った
「律はかわいそうな子です
あの子は多額のお金で施設に売られたんです
私にはどうすることもできなかった
ただみていることしかできなかった
ヤタガラスがそういう組織と知って私はなんとか律を助けました
でもあの子はすぐにどこかに行ってしまった
今更、帰ってきたかと思えば
若い2人のことだから口出しはしたくない
だから幸せにしてやってください」
私は目に涙を浮かべる住職さんに頭をさげて戻ってきた律を見ると私に手招きしていた
律について行くとそこは裏庭だった
そこに小さなお墓があり白い花が揺れていた
「瑞希の墓」
「えっ···」
「なにも埋まってないけどな
骨もみつからなかった
だから俺は今でも生きてるんじゃないかって思ってる」
「···律」
律は手をあわせながらうっすら泣いていた
「内緒な」
私もそっと手をあわせた
まるで無事を祈るように
境内に戻るとお経と木魚が静かに響いていた
「帰るぞ」
「うん」
私の部屋に戻る途中でスーパーで買い物をして戻った
律はキッチンで魚を丁寧に卸していた
邪魔しちゃいけないけどその細い腰に手をまわした
「変態」
「だってかまってくれないんだもん」
「はあ?」
魚を捌く手を止め振り返ると缶ビールがテーブルの上に転がっていた
缶ビール一本で酔えるなんてどんだけ安上がりな体なんだよ
「律く~ん」
甘い声に背中がぞわりとする
「マジやめろ」
魚を卸しおえて手を洗うと改めて麻衣を見る
「な~に?」
チュッと背伸びしてのキス
疲れてた俺はひょいっと麻衣を抱えてソファーに横たえた
「少し待って」
チュッと額にキスを落とす
それからお刺身と煮魚と荒汁を作る
残っていた缶ビールを喉に流し込んでちらりと麻衣を見る
「最初に裏切ったのは俺だよ」
麻衣は知らないのだろうか本当にヤタガラスのこと
忘れたいことをすべて忘れてしまってるだけなんじゃないか
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