この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
唇をそっとなぞる
いけないいけない仕事仕事
気持ちを切り替えて自分の部署のデスクに向かった
隣から美沙の声がする
「キスしてたんだって?
やるじゃん恋いなんてしないって決めたあんたがねぇ」
「あれは不可抗力」
パソコンにデーターを打ち込みながら美沙の話しを否定する
「不可抗力ねぇ」
「私はゆきさん以外は認めないの」
「そっか、でもよく連れ込んだね」
「拾ったのよ人聞き悪いんだから」
「拾った?」
「もういいでしょ」
私は頭にきながら午前中の業務を終えた
伸びをしてから社食に向かった
今日の目玉ランチはチキンカツか
それにしよう
お昼ご飯をテーブルに運び終えると美沙が来た
「今日さ麻衣の家に泊まりに行っていい?」
「ダメ」
「いいでしょ」
「ダメったらダメ」
全力で否定したがけっきょく無駄な努力だった
気が重いまま午後の業務につき五時のチャイムで美沙とあがった
美沙と一緒に自分の部屋にあがる
「ただいま」
「おじゃまします」
「瑞希?」
声をかけるが返答はない
なぜか気に入っているフランス製のソファーの上で具合が悪いのか眠っている
「これが麻衣のわんこ君か
なかなかイケメンじゃん」
「そう?あっうるさかった?」
瑞希が起きたからびっくりした
「誰?」
「あっえーっと友達
体、大丈夫?」
「心配してんの?」
「当たり前でしょ」
「後でな」
またなにかよからぬことを考えてる
「ねぇ美沙、外いこ
私お腹すいちゃった」
「えっでも瑞希くんは?」
「一緒に行く?」
私はしかたなくきいた
頷くのかと思ったらソファーに横になってしまう
「具合わるいの?」
返答はない
「私さ用事できちゃった
やっぱり帰るね」
美沙にごめんと謝って静かになった部屋の電気をつけた
「いいの?」
「いいの
それより病院行こう」
「いかない、おまえがそういう態度なら出て行く」
「ちょっと」
立ちあがりはしたもののよろけそうになっている
瑞希の腰に手をまわして抱きしめた
「ってぇ」
あまりにも大きすぎる声にびっくりして手を放した
「ごめん」
「平気」
「平気なわけないよね?」
「出てく世話になったな」
「待って」
私の声と瑞希が倒れるのは同時だった
慌てて救急車を呼んで瑞希が嫌がる病院に着いた
状態は最悪だった
複数の殴打の痕は内臓まで脅かし炎症をおこしていた
肋骨は既に数本は折れていて最低でもひと月は入院したほうがいいような状態だった
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