この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
08幸せになる条件
小さくお辞儀をして助手席に座る
「荷物は後ろ」
言われたとおりに後ろに置いた
「ありがとうございます」
「たまたま通りかかったら君がいたから
どう律とはうまくいきそう?」
「はいまあ」
「なかなかクセがあるからねぇ律は」
「まあ」
「律に会いに行く?」
「帰ります
こんな顔じゃ会えないし」
「どうしたの?」
「あっいえたいしたことじゃないんです
会社を辞めるのにトラブって」
「そっか大変だね」
「自分が悪いんですから」
修司さんにマンションの場所を伝え送ってもらった
「気をつけて」
「ありがとうございました」
マンションの自分の部屋に帰ると鍵は開いていて中はひどく荒らされていた
ゆきさんの写真が破り捨てられ何かを探したように荒らされている
律の写真まで床に落ちていた
「なにこれ···」
段ボールを取り落としてしまう
警察に電話をかけようとして律にかけてしまい慌ててきりかけると声がする
「どうした?」
律の低い声がする
「なんでもないの間違えちゃった友達にかけようとして」
「なんかあったよねその声」
「本当になにもないよ」
「俺に心配かけさせたくないんだよね麻衣さん優しいから」
「そんなことないよ」
「言ってよ話して聞いてるから」
「あのね部屋が荒らされてたの」
「ごめん俺のせいかも」
「···もうヤダ」
律のせいじゃない
わかっているけどつい声が出てしまった
「傍にいられなくてごめん
不甲斐ないのは俺の方だな」
「律···会いに行っていい?
傍にいたいよ···」
律はなにも言わないから荒れた部屋の中にあるゆきさんと律の写真だけを持ってタクシーで病院に向かった
タクシー代がなく困っているとすっと手が伸びてきた
「律」
律がタクシー代を払ってくれたおかげで病室に入れた
「どうした?その顔」
「別になんでもない」
「ったくおまえは」
抱きしめて泣かせてくれる
律が好き大好きすぎてわからなくなる
律に背伸びしてキスをする
答えるように律がキスを返してくる
「律···いいのかな」
「はあ?なにいまさら怖がってんだよ」
「だって部屋も荒らされてたし」
「おまえ誰かに恨まれてんじゃね?」
「それは律でしょ」
「んでどうしたの積極的だけど」
私はいつの間にか律をベッドに押し倒していた
「なんでもない」
慌てて離れようとしたけど手首を掴まれ動けない
「点滴終わるまでなら誰も来ないけど
キスしていい?」
「はい?」
「キスしたい」
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