秘め恋*story7~試着室で…~
その日のお昼、私はとりあえず問題が解決したことを滝本さんに伝えたくて、裏口へ向かった。
昨日の今日でどんな顔をして会えばいいのか、ちょっと迷うけど心配かけてしまったし、ちゃんと伝えておきたいな。
少しドキドキしていると、
「お疲れ様っすー。」
あれ?
「お疲れ様です。あの、今日滝本さんは…」
今日の配送は、滝本さんじゃなかった。
今日来た配送の金髪のちょっと軽そうな若い男の人は思った通り軽い口調で…
「滝本っさんすか?滝本っさんは、辞められましたよ。」
「えっ?辞められた?」
「そっすよ。元々、臨時だったみたいなんすけどね、昨日の夜、急に決まったみたいっすー。」
やけに連呼する“っす”が気になったけど、そんなことより…
何で、滝本さん、急に…
「あのー?もういっすか?」
「あ、はい。」
急に黙り込んでしまった私を不思議そうに見ていた配送のお兄さんは、私が頭を下げると荷物を持って行ってしまった。
滝本さんなら、そんなに荒く扱わないのに。
そんな風に思いながら、私はほてほてとお手洗いに入った。
鏡の前で自分を見つめながら、考えていた。
まだ何も言ってないのに…
まだ何も伝えてない。
それなのに、何で止めちゃうんですか。
滝本さん。
「私、何を伝えるって…」
ふと自分の気持ちに気づいて、呟いた時…
誰かがお手洗いに入ってくるのが分かって、つい個室に隠れてしまった。
「ちょっと、聞いた?高田、あの山積みの商品全部さばいちゃったらしいわよ。」
「え、ほんとですかぁ?何だ、つまんない。」
声は、中村さんと山下さんだ。
そして、話のタネは私のよう。
「あ、そうそう。今日、会社の上の方の人が視察に来るらしいですよー?」
「あら、こんな時期に?変ねー?
もしかして、高田のミスのお叱り?」
「あははは!可哀想ー。
どうせなら、もっと入力ミスしといてあげれば良かったー。」
「あんた、やり方がぬるいのよー。」
私は個室でひとり、固まった。
入力ミス?やり方がぬるい?
私が仕上げた発注リストを山下さんが手をつけたらしい。
「あんな地味で陰気臭いブスに何であんな仕事任されなきゃならないのよ。」
「チーフも見る目ないですよー。」
2人のそんな妬み嫉みを聞いた時には、私は個室から飛び出していた。