王子な秘書とシンデレラな御曹司

「……さん。雅さん、雅さんっ!」
気合を入れたような声で最後に呼ばれたので『はいっ』って大きく返事をし、私は目を覚ます。

車の中
目の前に私のマンション。
運転席には呆れた顔の副社長。

「すいません寝てました?私」
ヨダレ出てないでしょうね。
あまりにも気持ち良すぎた。

「短い時間で熟睡してました」
冷たい眼で言われてしまった。
すいません。

「お疲れだったのでしょう。明日は遅く来ていいですよ。ゆっくり休んで下さい。おやすみなさい」

「はい。ありがとうございました」

あれだけ車の中で言い合っていて
熟睡した自分が恥ずかしい。
変な夢まで見てしまった。
副社長とキスなんてないわー
あんな甘い声で名前なんか呼ばないし。

降りようとすると
あれ?
シートベルト……自分で外したっけ?

「何かありました?」

気のせいか
副社長の声がトゲトゲしいわ。
まだ機嫌悪いのかな男らしくないぞ。
逃げるが勝ちかな。
私はとっとと車から降りて窓越しに副社長と会話する。

「いや……私まだ寝ぼけてますね。シートベルトを外したのを忘れてました」
サラッと笑ったとたん
副社長の顔が真っ赤になった。

「雅さん」

「はい?」

「僕のした事……気付いてました?」
すんごく真面目な顔で急に言われてしまい、寝ぼけた頭で私は考える。

「覚えていたら丁度いいです。はっきり言います。僕の気持ちは……」

「はぁ?まだ怒ってます?今日のデートの件で私が色々聞いた件でしょう」

言葉が重なり
副社長は眼鏡の奥の目を少し大きくしてから、安心したようにタメ息をして

「おやすみなさい」と言い残し。

車はまた静かに去って行った。



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