王子な秘書とシンデレラな御曹司

「雅さんの机は?」

「ありませんよ」

「どうして?」

「もうミッション完了です。私は明日から総務に戻ります」

部屋の片づけをしながら私がそう言うと
副社長は身動き一つせず固まってしまった。

おい?大丈夫か?

「副社長?」

「どうして急に?」

「もう私の任務は終わったので」
自分でこんな冷静な声が出るとは驚きである。

「だからって急にいなくなるなんて」

「総務の方も忙しいので、私が戻らないと困るんです」

「僕だって雅さんがいないと困ります」

「新しい秘書が来ます」
誰になるかわからないけど
私より優秀なのは間違いないだろう。

「雅さん」

そんな切ない声で呼ばないでほしい。
別れがつらくなるでしょう。

無視して副社長に背中を向け
棚にファイルを順序良く並べていると

「ずっと傍にいて下さい」

背中から

抱かれる。


ギュッと強く抱かれ
本気で泣きたくなってきた。

副社長の両手が私の前でクロスして、逃げ場を途絶えさせる。

「どこにも行かないで」

啓司さんの香りが私を包む
柔らかい唇が私の耳を甘く噛む。

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