落ちてきた天使
「話がある。そっち行ってもいいか?」

「い、嫌っ!来ないで。話なんて聞きたくない」



耳を塞いで顔をブンブンと横に振る。

聞きたくない。
佳奈恵さんの話なんて……
別れ話なんて、受け入れられるわけないじゃない。



「彩」

「……」



愛しい声が私の名前を呼ぶ。
いつも嬉しくて擽ったい気持ちになるのに、今は胸が引き裂かれそうだ。



「彩っ」

「いや……」



どんなに耳を塞いでも届いてくる皐月の声。

大好きだから……
本当は名前を呼ばれて嬉しいから……

その声を逃さずに拾ってしまう。



「聞けって…‼︎」

「きゃ……!」



いつの間にか木に登って来ていた皐月に耳を塞いでいた両手を取られ目が合った瞬間、ハッと息を飲んだ。


なんで……
なんで皐月が泣きそうな顔をしてるの?



「ごめん……あんな酷いこと言って、本当にごめん」



皐月の消沈しきった声、揺れる瞳。

私の手首を掴む手に力が入っていて、皐月の不安が伝わってくる気がした。



「あんな風に言うつもりはなかったんだ。彩を傷付けないように前もって説明しておくつもりだったのに……情けないけど、自分が止められなかった」



これが、あの皐月…?

自信家で俺様で、いつだってどこだって堂々としてる皐月が、今は弱々しく見える。


返す言葉が見つからなくて皐月の揺れる瞳を見つめていると、皐月は泣きそうな顔で私の頬を大きな掌で覆った。



「頼むから……大嫌いだなんて言うなよ」

「っ……」



ひどく掠れた声だ。
胸が締め付けられるようなその声色に、胸がきゅーってなった。



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