落ちてきた天使
洋平は嬉しそうに「変な人だろ?」と笑う。


おやっさんへの想いが強く伝わってくる、そんな笑顔だった。



「うん、ホント変な人」



少なくとも私は、あんな風に初対面の時から普通の子として受け入れられたことはなかった。



“親がいなくて可哀想な子ね”


“養子らしいわよ。本当の親は事故で亡くして…可哀想よね”



どの大人も哀れみの目や好奇な目で私を見て、影で話のネタにされる。


私に向けられた笑顔はどれも偽物で、痛々しいものだった。



だけど、おやっさんは違った。



「でも、凄く温かい人だよね」

「ああ」



本物の笑顔って、こんなにも胸を温かくしてくれるんだ。


受け入れられる、認めてくれるって、こんなにも幸せなことなんだと知った。



二人同時に空気を思いっきり吸い込んで、一気に吐き出す。


お互い見合って笑って。


「帰るか?」と洋平が言う。


「そうだね、帰ろうか」と私が答える。


隣りには洋平。


ほとんど施設にいた時のことなんて忘れてるのに、何となく洋平と並んで歩くのが懐かしく感じた。





「そういえば時間大丈夫?」

「あ!今何時⁉︎」



連絡するの、すっかり忘れてた。
多分、皐月はもう家に帰ってる頃だ。


慌ててスマホを見ると、皐月からのメールや着信の数々に「あちゃー」と頭を抱えた。



「洋平、ごめん。私急ぐね」

「は?何言ってんの。送ってくって」

「大丈夫。まだそこまで暗くないし、もうすぐそこだから」



皐月のマンションはもう見えてる。
走れば数分で着く。一人でも何の問題もない。


それに、洋平が暮らす施設とは反対に曲がらなきゃいけないから、送ってもらうと洋平が遠くなってしまう。



「駄目。近くても暗くなくても時間が時間だ。女一人で帰らせるわけにはいかない」




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