その愛の終わりに
なら、あの真珠はどなたに?
美都子のその問いに、山川は言葉を詰まらせた。
ざっと数えただけで四人ほど、候補に上がる女がいるが、それをこの繊細そうな人妻に言うのは、なんとなく嫌だった。
「山川さん、どうか教えてくださいまし。私が知らないだけで、主人には愛人でもいるのでしょうか?」
「そこまで親密な関係の者はおりません」
慌てて口をふさぐも時すでに遅く、勢いで口を滑らせた山川に、美都子はすかさず食いついた。
「お付き合いしている方はいらっしゃいますのね?」
いや、その、と意味のない言葉を吐く、冷静さを欠いた山川の態度は美都子の心の穴をゆっくりと広げていった。
覚悟はしていたはずだったが、震えが止まらない。
椅子に座らずに立っていたら、きっと床に崩れ落ちていただろう。
「山川さん、あなたの知る主人について包み隠さずに教えてください。私が知っている彼とどれくらい隔たりがあるのか、知りたいのです」
そこまで言われてしまえば、もう誤魔化せない。
こうなったのも義直の自業自得である。
これから発する己の言葉がどれだけ美都子を傷つけるか考え、山川の額から汗が滲み出た。
「そこまで仰るのなら……。ただ、あまりご婦人に聞かせたくはない話しです。本当に、普段のあいつを知りたいのですか?」
「ええ」
言葉少なにそれだけ言うと、美都子はキッと山川を見据えた。
その凛とした表情に、山川の心臓がドクリと跳ね上がる。
今の表情はかなり色っぽい、などと不埒なことを考えながら、山川は語りはじめた。
「義直はもともと、女性を道具としてしか見ていませんでした。それらしい言葉で誘い、女性が身を任せればだいたい一ヶ月で飽きて捨てるような男でした。結婚する気など毛頭なく、女などどれも同じだ、などと言う男だったのです」
もう、すでに頭がついていっていない。
それは美都子の知る義直ではなかった。
確かにどこか冷めたところがあったが、彼女の知る夫は理知的で、そんな時代錯誤なことを言う人間ではなかった。
「そんなどうしようもない男だった義直が、自分から好意を寄せた女性は、奥様、あなただけでした。あなたにだけは、自分の醜い部分を隠していた」