その愛の終わりに
「すみません、仰っていることの意味がよくわからないのですが……」
「今まで義直は、複数の女性を食い散らかし、それを相手の女性に隠そうとしたことなどなかった。露見すれば開き直り、お前の体には飽きたと言う始末。そんな男が、あなたに会ってからはずいぶんと変わった」
だんだん山川の声が遠ざかっていく。
わずかに視界が揺れ、美都子の頭はひんやりと冴えていった。
抱かれるたびに感じていたあの余裕は、今まで何人もの女性と寝たことにより生まれたものだったのか。
快楽を植え付けたあの手を知る女が、他にもいるのか。
別に義直を愛しているわけではない。
愛しているわけではないが、それでも不快感を覚えずにはいられない。
「……もうやめましょう。顔色が悪い」
美都子の表情を見るやいなや、山川は正直に話したことを後悔した。
やはり、貴婦人には耐えがたい屈辱だったのだろう。
もともと白い顔はさらに色をなくし、微かに肩が震えている。
「いいえ、最後までお聞かせください。中途半端なところで切られたら、とても気になります」
意識をしっかり持たねば、と美都子は気合いを入れ直して山川を見た。
幸い、声はしっかりとしていた。
衝撃は受けたものの、しっかりと受け止め、即座に立ち直った美都子に、山川はただ感心した。
ここまで気骨のある貴婦人はなかなかいないものだ。
「では、続けます。女性を下に見ていた義直は、あなたのことだけは尊敬していた。対等な立場でいようとしていた。あれだけ激しかった女遊びもすっかりなくなり、私は安心していました。しかしそれも、一年が限界だった。私だけでなく、義直と付き合いのある者たちは疑問に思いました。あれだけ愛して、必死で結婚まで漕ぎ着けた妻がいながら、なぜまた女遊びをはじめたのか」
「私に飽きたから……でしょうか?」
恐る恐るそう尋ねれば、山川は緩やかに首をふった。
そして、気まずげに美都子に問う。
「奥様、あなたは義直を愛していますか?」
はい、もちろん。
そう即答するべきなのはわかっているが、美都子は言葉が出てこなかった。
それになにかを悟ったのか、山川は穏やかに続きを語る。
「結婚などそんなものだ。利益がすべてのこの行為に、愛を求めるほうがどうかしている。だが、義直はあなたを愛してしまった。だからこそ、あなたの気持ちが自分にないことに気づいたのだ」