その愛の終わりに


結婚生活で一番の収穫は、贅沢な生活でも、姑との良好な関係でもなく、夫との甘美な時間である。

義直に抱かれるたびに、美都子はそう実感していた。


「あなたッ……もう、んッ」


細くしなやかな指が臀部をなで回すたびに、勝手に腰が動く。

シーツの上にポタポタと水滴の垂れる音を聴き、美都子はきつく目を閉じた。

義直とのこの行為は、彼に主導権があり、美都子には一切の権限がなかった。

それでも苦痛に思ったことがないのは、単に義直の技量のためである。

あまり女遊びをしない割りに、彼の女を抱く技術はいやに高い。


「久しぶりなんだ。痛めつけたらかわいそうだろう?」


足の付け根をなぞるだけでそれより先に進もうとしない義直に、美都子は首を振った。

四つん這いの姿勢であるため表情は見えないはずだが、義直にはわかっていた。

ひたすら焦らしながらゆっくりと指を埋めていくと、美都子の口から小さくあえぎ声がこぼれた。

くすぐるように中を解しにかかった義直の指を、美都子のそこは貪欲に呑み込んだ。


「ああッ、うあッ」


甲高いあえぎ声に恥じ入る暇もなく、美都子はシーツをきつく掴んだ。

指を引き抜かれ、名残惜し気に振り返る美都子の頭を撫で、義直は男根を宛がい、緩やかに沈めていく。

待ち望んだ圧迫感に、美都子は忘我の境地に飛んでいった。

快楽の波が引いたあとは、しばらく夫の腕の中で寛ぐ。

ここまでは、いつも通りであった。


「明日、友人が泊まりに来るんだ」

「ご友人が?」


義直の友人には外れがない、というのが美都子の見解である。

女性を楽しませるだけではなく、美都子の知的好奇心を刺激するような話題を提供してくれるため、義直の友人が訪ねてくるのは美都子の密かな楽しみであった。


「今回はどなたがいらっしゃいますの?」

「山川という悪友だ。医者をやっていてね、つい三ヶ月前までドイツにいたんだ」

「まあ、ドイツに!」


子供のように目を輝かせる美都子に、義直は穏やかに微笑んだ。


「なぜ君が女学校卒業まで縁談がまとまらなかったのか、改めて納得したよ」

「それは遠回しに不細工とおっしゃっていますの?」


目に見えて機嫌を悪くする美都子を抱き寄せ、からかうように義直は呟いた。


「向学心旺盛だから。怠け者の男には扱いかねるだろう」

< 3 / 84 >

この作品をシェア

pagetop