その愛の終わりに
意識が戻った時には、どっぷり日が暮れていた。
カーテンは閉めきられているが、隙間から見える外は暗く、シャンデリアから降り注ぐ光とは対をなしていた。
心配そうな面持ちで美都子の顔を覗きこんでいた若い女中が、弾かれたように立ち上がった。
「奥様!お加減はいかがですか?」
ゆっくりと体を起こすのを手伝ってもらい、美都子は額に手を当てた。
「もう平気よ……。今、何時?」
「八時を過ぎました。それよりも、おめでとうございます!」
唐突な祝いの言葉に美都子が首をかしげたその瞬間、寝室のドアが開いた。
そして、やや疲れた面持ちの義直が、呆れたように女中を叱った。
「君の仕事は、美都子が目を覚ましたら私を呼ぶことではなかったかな?それに、そういった報告は私がするべきだろう」
「も、申し訳ございません、旦那様!では、私はこれで……」
そそくさと退室してしまった彼女に訳を聞くことも出来ず、困惑した美都子は義直を見た。
すると義直は、皮肉っぽい笑みを口の端に浮かべた。
「とりあえず俺からもおめでとうと言っておこう。美都子、君は今、妊娠二ヶ月目らしい」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
妊娠二ヶ月目。確か、最後にベッドを共にしたのは十月から十一月かけて。
「山川との間に出来た子供か疑いそうになったが、時期を考えれば、まず間違いなく俺の子供だ」
子供、妊娠、その単語がもたらした衝撃は大きく、美都子は頭が真っ白になった。
はくはくと口を動かすが、言葉が出てこない。
「よりによってこんな時期に懐妊とはな。君にとっては不本意な妊娠だろうが、堕胎はさせない。待望の跡継ぎかもしれないのだからな」
「堕胎なんて……!」
まだ自分が身ごもった実感は湧かないが、それでも瞬時にその言葉を否定する。
「本当か?美都子、妊娠が発覚した以上は離縁は無理になったんだぞ?子供から母親を奪うわけにはいかないからな」
そう言われて、美都子はハッとした。
確かに、離縁は絶望的になった。
もし出来たとしても、それは何年も先だろう。
「自分を優先させ子供に苦労をかけるか、自由を諦めて、子供に父親がいる裕福な生活を与えるか。一晩よく考えてみろ」
部屋を出る前に放った義直の一言が頭にこびりつき、美都子は眠れない夜を過ごした。