その愛の終わりに

体のあちこちがピクリピクリと痙攣するが、それでも美都子は山川の熱を感じていた。

朦朧とする意識の中で、彼に初めて出会った時のことを思い出す。

おそらくあれは、一目惚れだったのだろう。

人生の中で、初対面の男性にあれほどときめきと憧れを覚えたことはなかった。

この気持ちを抑える必要がなくなった今は、なんと幸せなのだろう。

体は重く、意識も薄れてきているが、美都子は満足げに微笑んだ。

そしてそのままゆっくりと、永遠に覚めることのない眠りについた。

その傍らには山川がいたが、彼は相当苦しんだのか唇を真一文字に引き結び、そして何度か痙攣した後に絶命した。

彼の眉間に深く刻まれていたしわは緩み、不気味なほどに無表情の死に顔となった。

二人が命を終わらせた直後、窓から朝日が差し込んだ。

暗い室内は陽の光に晒され、山川と美都子に降り注ぐ。








大正十一年二月、赤坂の山川診療所にて、診療所の主である山川雄二郎と年若い女の死体が見つかった。

共に杏仁水を煽った服毒死であり、世間はこの事件を無理心中と判断した。

相手の女が東雲男爵の妻、東雲美都子であったことから事件は様々な憶測を生む。

残された東雲家の当主であり、美都子の夫であった義直は、ただ黙々と妻を弔った。

当然屋敷には新聞記者が詰めかけ、美都子について訊いてくる者も数多いたが、義直は亡くなるその日まで美都子について語らなかったという。


ーーー完
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