好きだと言ってほしいから
そして私を送ってくれる。ここから私の家まで往復二時間。仕事で疲れている逢坂さんには決して短い距離じゃない。

 お腹だって空いているのに、時間をかけて私を送らせるなんて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。でも逢坂さんは私を一人で帰らせたりしないし、私も彼に会ったら断ることができない。だから彼の顔が見られないのは淋しいけれど今のうちに帰ってしまおう。

 きっと私が部屋で待ってると思っているだろうから、今日はバスで帰りますとLINEをしておけば彼だって安心するはずだ。

 玄関を出て鍵をしめると、ドアポストにクマのキーホルダーを滑り込ませた。彼の部屋の鍵がついた、彼には可愛すぎるキーホルダー。だけどそれはやっぱり彼の鍵であって、私の鍵ではない。

 バス停で駅までのバスを待っていると、田舎の草の匂いが混じったあたたかい夜風が吹いた。二年前、逢坂さんに告白した夜もこんな夜だったことを思い出す。

 入社してすぐの四月。同じ大学出身の新入社員数人と出掛けた飲み会の席に、逢坂さんもいた。OB訪問でお世話になった誰かが声を掛けたと聞いた。私はほんの一口のお酒の力を借りて、それでもそんなものは全然約に立たなかったけれど、勇気を出して告白した。あの日もこうして緩やかな風が彼の髪を撫でていた。

 田舎のバスはなかなか来ない。十分待っているけれど、バスが来るまでまだあと五分もある。スマホの時計を確認して肩を落としたとき、握り締めていたそれが急に鳴り響いた。驚いてビクリと肩を震わせた私が画面を確認すると、逢坂さんからだった。ドキンと跳ねる鼓動。一つ深呼吸をしてからスマホを耳に当てた。

「もしもし……」

『麻衣?』

「逢坂さん……」
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