好きだと言ってほしいから
「どうして今日は一人で帰ろうとしたの?」

 彼が言ったとおり、それから五分後、コンビニ前の道路に白い車が停車した。逢坂さんの車だ。

 彼の車は当然、日栄自動車のもので、白いボディのSUV車だ。他メーカーの車を乗ることを禁じられているわけではないけれど、その場合、マイカー通勤するにはいろいろ制約があるため、自社の車に乗っている社員は多い。

 彼の車の助手席に落ち着いた私はシートベルトをしながら戸惑った。いつもどおり優しい口調だけれど、何だか少し違和感を感じたから。気のせいかもしれないけれど、苛立っているように見える。やっぱり疲れているのだろう。

 それなのに私はこうして彼の車に乗り込んでいる。これから片道一時間かけて、私の自宅に向かうのだ。私はうなだれた。

「ごめんなさい……」

 小さな声になった。だけどBGMのない静かな車内では充分な大きさの声だった。彼がハンドルを握った手を離してこちらを向く気配がした。

「何が“ごめんなさい”なの?」

 横顔に視線を感じる。逢坂さんが私を見ているのは分かりきっていた。ますます緊張してしまう。私は首を振った。彼がいつもの宥めるような声を出した。

「麻衣? こっちを向いて」

 言われた私はおずおずと彼に向き直る。目の前の逢坂さんは呆れたような、困ったような顔をしていた。
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