好きだと言ってほしいから
 私は途端に後悔をした。
 逢坂さんが忙しいのは分かっていたのに、どうして私は今日も彼の家に行きたいと言ってしまったの? いくら自分が毎日会いたいからといって、せめて週末まで待つということが、どうしてできなかったの? こうして彼が私を家まで送ってくれるのは嬉しいけれど、私は彼の負担になりたいわけじゃない。でも結果的には、こうして疲れた彼に長時間の運転をさせてしまうのだ。

「私の家、遠いから……仕事で疲れてるのに申し訳なくて」

「それで一人で帰ろうとしたの?」

 私は頷いた。狭い車内に逢坂さんの溜息が響く。付き合い始めてから、こんな溜息を私は何度も聞いている。居たたまれなくてギュッと目を瞑った。

「そんな心配、しなくていいよ」

 逢坂さんは優しく私の頭を撫でると車を発進させた。
 ゆっくりと滑り出した車は滑らかに車線を変更する。スムーズな加速とパワーを誇る車だけれど、彼は決してスピードを出さない。常に安全運転で、私はいつも彼の車の助手席に安心して乗っていられる。

 でも、車を降りて彼の隣にいるときは不安と隣り合わせになる。私ばかりが彼を好きで、いつかこんな私が面倒になり彼は離れていってしまうかもしれない。彼を失うかもしれない。そんな不安が消えることは今のところない。

 片道一時間のドライブはほとんど私がしゃべっていた。疲れている逢坂さんを少しでも癒したくてそうしていたけれど、果たしてそれが本当に彼を癒せているのかどうかは自信がない。逆に疲れさせていたらどうしようと考えたりするくらいだ。

 私がもっと魅力的な女性で自分に少しでも自信を持てたなら、こんなことを考えなくても済むのだろうか。だけど残念なことに地味で内気な私には、そんな自信はどこにもなかった。こうして逢坂さんの恋人として彼の傍にいられることが奇跡だといえるから。
< 16 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop