好きだと言ってほしいから
「そ、それにしても、逢坂さんの通ってるジムが平岡くんのお友達のジムだったなんてびっくりしちゃいました。彼、あんな体格してますけど、本当はアニメとかゲームが好きであまり運動するタイプじゃないんですよ。でもお友達がジムやってるなら、あんなにがっしりしてるのも納得ですね。きっと平岡くん、半分は無理やりやらされてるんですよ」

 笑いながら逢坂さんを見る。彼はじっと私を見ていたようで、私と目が合うとふっと笑った。

「麻衣は筋肉質な男が好きなの?」

「え? ち、違いますよ。私は別にそんな……。ただ平岡くんの話をしただけで……」

 私が好きなのは逢坂さんだけだ。彼が筋肉質であろうがなかろうが、そんなことは関係ない。確かに逢坂さんも週二回のジム通いをしているだけあって、無駄な贅肉はないし、腹筋だって硬い。服を着ているときはあまり分からないけれど、その鍛えられた上半身を見れば、努力していることが分かる。

「ひ、平岡くん、来月からこっち戻ってくるって言ってたから……、きっとますます筋肉ついちゃいますね。逢坂さんも、私よりも平岡くんに会う回数が増えるかも」

 ちらりと逢坂さんを見る。コーヒーの入ったマグカップをぼんやりと見つめている彼は、やはり何か考えているようだ。

「……逢坂さん? どうかしたんですか?」

 彼の方へそっと身を乗り出す。私の気配にハッと我に返ったらしい逢坂さんはやっぱり何かがいつもと違った。
 けれど次の瞬間には、優しい笑顔を浮かべる彼だから、私はどうしていいのか分からなくなる。
 逢坂さん、あなたはいったい何を悩んでいるの?

 逢坂さんがテーブルにマグカップを置いた。こちらに手を伸ばすと私のマグカップを取り上げてそれもテーブルへ置く。掴まれた腕を軽く引っ張られると、私は簡単に逢坂さんの腕の中に閉じ込められた。
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