好きだと言ってほしいから
 机を拭き終わった私が横を向くと、葵ちゃんはまだ意味ありげな笑顔を浮かべている。

「いやー、逢坂先輩も必死だな、と思ってさ」

「必死っていうか、時間がないから忙しいのよ。明日の夜の便で出発しないといけないし、今日もこれから帰って最後の宅配便の手配とか、色々あるもの」

 私が肩をすくめながら説明すると、葵ちゃんは首を振った。

「違うって。そういう意味じゃなくてさぁ……」

「麻衣、終わった?」

 葵ちゃんが言いかけたとき、ドアの方から声を掛けられた。逢坂さんの声だ。開いたドアの上枠に手をかけて私を見ている。
 前にも一度、こうして私を迎えに来てくれたことがあったけど、彼は廊下で私が出てくるのを待っていた。今はこんなにも堂々と私に声を掛ける。

「ほら、旦那のお迎えよ」

「だ、旦那って……ま、まだ私たち……」

「同じことでしょ。ほら、雑巾は片付けといてあげるから、行った行った」

 葵ちゃんがわざとぞんざいに手を振る。入り口にいる逢坂さんにちらりと視線を流してからまた葵ちゃんを見た。

「うん。葵ちゃん、ありがとう」

「うんうん。明日はゼミのみんなで見送りに行くから」

「うん……」
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