好きだと言ってほしいから
最初はその匂いに惹かれた。俺の頬を撫でたその柔らかい髪が気になった。耳まで真っ赤にして、本当に申し訳なさそうにお礼を言った彼女の声を可愛いと思った。そして、小さくなって俯いていた彼女が顔を上げて俺を見つめた瞬間、俺はたちまち彼女に恋をした。まだ彼女のことを何も知らないのに、俺はこの子が好きだと思った。
まさかこんなに簡単に恋に落ちるとは思ってもいなかった。“恋”というものを深く知らずに生きてきたはずなのに、これが“恋”だと気づくのは簡単だった。それくらい、俺の全てが彼女に分かりやすく反応した。
だから俺は彼女と同じ天文サークルに入った。俺の興味は星じゃなかった。彼女だった。彼女を知れば知るほど、俺は彼女が好きになっていた。
好きだと気づくのはあんなに簡単だったのに、そこから先は難しかった。テストで満点を取ろうが、どんなに満足のいくレポートを書こうが、彼女に対してどうするべきかの答えが分からない。そうして二年が過ぎ、俺は結局、彼女との距離を縮めることが出来ないまま大学を卒業して就職し、彼女と離れてしまった。
そんな大学時代だったから、すっかり諦めていた俺の前に再び彼女が現れて、信じられないことに好きだと言われたときは、都合の良すぎる展開に驚きで言葉が詰まった。だから思わず“麻衣”と彼女の名前を呼んでしまい、焦ったのを覚えている。
麻衣、俺はやっぱり君が好きだ。出来ることなら君には俺についてきて欲しいと思っている。早くに母親を亡くした君が、お父さんを大切にしているのはよく知っている。お父さんだって、君が可愛くて、君を愛し、傍に置いておきたいと思っているだろう。だけど、お父さんと君の間には血のつながりという深い絆がある。
そして俺はどうだ? 俺にはそんなものはない。俺にあるのは、君に対する深い愛情、それだけだ。胸を張って差し出せるものがあるとすれば、それしかない。俺と君を繋ぐものがあるのなら、それしかないんだ。だから俺は、君のお父さんよりも、君を必要としている――。
まさかこんなに簡単に恋に落ちるとは思ってもいなかった。“恋”というものを深く知らずに生きてきたはずなのに、これが“恋”だと気づくのは簡単だった。それくらい、俺の全てが彼女に分かりやすく反応した。
だから俺は彼女と同じ天文サークルに入った。俺の興味は星じゃなかった。彼女だった。彼女を知れば知るほど、俺は彼女が好きになっていた。
好きだと気づくのはあんなに簡単だったのに、そこから先は難しかった。テストで満点を取ろうが、どんなに満足のいくレポートを書こうが、彼女に対してどうするべきかの答えが分からない。そうして二年が過ぎ、俺は結局、彼女との距離を縮めることが出来ないまま大学を卒業して就職し、彼女と離れてしまった。
そんな大学時代だったから、すっかり諦めていた俺の前に再び彼女が現れて、信じられないことに好きだと言われたときは、都合の良すぎる展開に驚きで言葉が詰まった。だから思わず“麻衣”と彼女の名前を呼んでしまい、焦ったのを覚えている。
麻衣、俺はやっぱり君が好きだ。出来ることなら君には俺についてきて欲しいと思っている。早くに母親を亡くした君が、お父さんを大切にしているのはよく知っている。お父さんだって、君が可愛くて、君を愛し、傍に置いておきたいと思っているだろう。だけど、お父さんと君の間には血のつながりという深い絆がある。
そして俺はどうだ? 俺にはそんなものはない。俺にあるのは、君に対する深い愛情、それだけだ。胸を張って差し出せるものがあるとすれば、それしかない。俺と君を繋ぐものがあるのなら、それしかないんだ。だから俺は、君のお父さんよりも、君を必要としている――。