好きだと言ってほしいから
 素早く着替えを終えた葵ちゃんはロッカーの扉に付いた鏡で化粧をチェックし始めた。私が当然、逢坂さんのマンションに泊まるものだと思っているらしい。そんな彼女と鏡ごしに目を合わせた私はふるふると首を左右に振った。

「ううん。だって私、ちゃんと家に帰るもの」

「え? 泊まっていかないの?」

「うん」

 相変わらず鏡越しで目を丸くした葵ちゃんがくるりとこちらを振り返る。

「何で? 麻衣の家、ここから遠いし泊まっちゃった方がいいじゃん」

「そうかもしれないけど……」

「先輩だって麻衣を帰らせるより泊まらせた方が楽でしょうに。泊まってけって言われないの?」

 小さく頷く。

「逢坂さんは……いつも十時前にはちゃんと家まで送ってくれるから」

「えー! 信じらんない! 麻衣の家まで車で往復二時間くらいかかるじゃない。しかも十時って、学生じゃあるまいし」

「うん。でもほら、うち、お父さん一人だから……。逢坂さんはそのことも考えてくれてるのよ」

「あー、そっかぁ。それじゃあ仕方ないのか。でも……たまには泊まったって問題ないんじゃない?」
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