Tell me !!〜課長と始める恋する時間
久しぶりだな、ここに来るのは。


いつもの牛丼屋にていつもと同じものを頼み、いつものように姿勢正して美しい箸の持ち方で口に運ぶ。


そう言えば、彼女もこの店に来た事があったな。


たった数ヶ月ほど前の事なのにもう何年も前の事のように感じる。


僕と同じつゆだく大盛りを一生懸命食べてた彼女。


僕のSな部分がつい出てしまい、わざと同じものを注文したのだ。


一生懸命残さず食べる姿を思い出し、つい、自然と顔が緩む。


あの頃は正直、彼女に対して特別な思いは抱いてなかった。


いや、違うか。


気付けてなかったのか、彼女への思いに。


マーケティング部に欠員が出来、彼女は他部署から異動してきた。


僕の下に付いた彼女にこれと言って期待はしていなかった。ただ、与えた仕事をきちんとこなしてくれればそれで良いと。


女は面倒なもの。


ずっと、そう思っていたから。


彼女もその面倒な女の一人にしか過ぎないと思っていた。仕事中にコソコソと僕の姿を盗み見る彼女の視線にもうんざりしつつあった。


下手に気を持たれては困る。


課内に置いて恋愛沙汰など以ての外だ。


惚れただの付き合ってくれだの、そんな事になりかねないよう僕は彼女に厳しく接した。


僕を嫌えと。


愛人の子として生まれてきた僕はその複雑な環境で育ってきた事から、いつの間にか恋愛なんてものに期待する事が無くなった。


人を好きなると言う感情にも嫌気が差していた。


あんなもの、戯言にしか過ぎないと。


思えば誰かに特別な感情を抱いた事など一度もない。


< 179 / 211 >

この作品をシェア

pagetop