真夜中の恋人
すでに昨日とは違うスーツに着替え、ネクタイを締める彼は何処から見ても出来る大人の男になっていた。

普通なら手を伸ばしても届かないような男だと思う。

一目で上質だと分かるスーツを身に纏い、高級そうな時計を手首につける。

その何気ない仕草にさえドキリとしてしまう。

「見惚れてる?」

「えっ?」

心の中を見透かされているようで、恥かしくなって壁の時計に視線を移した。

時計の針は朝の八時を少し過ぎた頃。

「土曜日なのに仕事なの?」

「ああ、今日は午前中に会議があるんだ」

「そうなんだ」

「もう行かないと。ナツ、また連絡する」

ろくに振り向きもせず出て行こうとするタカヤに、ベッドの中から「いってらっしゃい」と声をかけた。

他にどう言葉を掛けていいのか、わからなかったから。
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