真夜中の恋人
タカヤはふと足を止めて、わたしを見た。

「……いってくるよ」

低いのに何処か甘さが残るタカヤの声。

その後ろ姿を見詰めていると、容赦なくドアは閉められて、わたしはまた一人になった。


ベッドから下りると、散らばった衣類をかき集めてバスルームに向かう。
熱いシャワーを頭から浴びて、昨夜の情事を洗い流した。

今度は、いつ逢えるの?
そんな言葉をつい口にしてしまいそうになる。

わたしは、いつの間にか、タカヤの訪問を心待ちにするようになっていた。

こんな関係をいつまでも続けているわけにはいかない。

離れられなくなる前に、終わりにしなければ……

そう思うのに、都合のいい理由をつけて、別れを先送りにしてしまう。


住む所を与えられ、週に一度、月に30万でタカヤに抱かれる。
こういう関係を世間一般的に愛人と言うのだろう。

けれど、タカヤはわたしに干渉しない。わたしが、どこで誰と何をしようと自由なのだ。

……わかってる。

タカヤが欲しいのは、わたしの身体だけで、わたしの気持ちは必要ないってこと。

もう少し。
あと少し、お金が貯まったらここから出て行こう。

一人暮らしに必要なものを買い揃えて、アパートを借りるため。
契約を結んだ目的を忘れないように、何度も自分に言い聞かせて。身支度を整えると、アルバイトに向かった。



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