真夜中の恋人
日曜日以外の朝九時に、わたしはアルバイト先のカフェに出勤する。

ここで働き始めて、ようやく一ヶ月が過ぎた。
制服に着替えてロッカーを閉める。身だしなみをチェックしてタイムカードを押した。


「おはようございます」

「西森さん、おはよう」

店長に笑顔で答えて、掃除に取り掛かる。

西森美奈 これがタカヤが知らないわたしの本当の名前。

「あ、西森さん、ちょっといい?」

「はい」

名前を呼ばれて店長に近付くと「シフトの件なんだけど」と店長は言いにくそうにあたしの顔をチラリと見て、それから重たい口を開いた。

「夜のシフトに入れないかな?」

「あの、それはちょっと……難しいです」

契約している以上、タカヤを最優先にしなければと思っていた。
タカヤが訪れる時間はわからない。真夜中が多いけれど、一度だけ九時過ぎに現れたこともあるから。

「週一でも、無理かな?」

「週一、ですか……」

どうしよう。強く言われると上手く断れない優柔不断なわたし。

「なんとかならない?」

店長にそこまで言われたら、もう断れなかった。

「わかりました。でも月曜日にしてもらえますか?」

渋々頷くわたしに、店長はニコリと微笑むと「了解。じゃ、月曜日は五時からラストまで頼むね」とわたしの肩をポンポンと叩いて奥へ下がっていった。


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